彼岸花
疲れた体と心を乗せた車は
大野川に架けられた橋を渡るとき
もう少しで家に帰れるとため息をつく
渡り終える手前の左側に見えるのは彼岸花
お盆が終わってから
現実の慌ただしさに
深呼吸をすることさえ忘れていた僕を
君は忘れていなかったんだね
君と一緒に佇んだ三年間
僕は君に何もあげられなかったし
君に何もしてあげられなかった
君は最後の一年間も僕に微笑んでいてくれた
微笑む君の瞳の奥に
深く刻まれた苦しみがあることを
僕は知らなかった
彼岸花の真っ赤さは
僕が「付き合ってくれないかな」と君に告白した後の
君のホッペの真っ赤さそのものだ
時が秋に向かって七時には夕焼けが空を染める
夕焼けが今までの思い出を赤く浮かび上がらせる
三年間の掛け替えのない君との思い出が
彼岸花になって真っ赤に迫ってくる
涙が枯れてしまって心に深い皺を刻んだ僕に向かって
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