2015年07月05日

高田渡のように

生活の柄

詩;山之口獏

歩き疲れては
夜空と陸との 隙間にもぐりこんで
草に埋れては 寝たのです
所かまわず寝たのです

 歩き 疲れては 草に埋れて寝たのです
 歩き疲れ 寝たのですが 眠れないのです

このごろは眠れない  陸をひいては眠れない
夜空の下では眠れない
ゆり起されては眠れない
 歩き 疲れては 草に埋れて 寝たのです
 歩き疲れ 寝たのですが  眠れないのです

そんな僕の生活の柄が
夏向きなのでしょうか
寝たかと思うと 寝たかと思うと
またも冷気にからかわれて
 秋は 秋からは 浮浪者のままでは眠れない
 秋は 秋からは 浮浪者のままでは眠れない

歩き疲れては
夜空と陸との 隙間にもぐりこんで
草に埋れては 寝たのです
所かまわず寝たのです


さびしいと いま

詩;石原吉郎

さびしいと いま
いったろう ひげだらけの
その土塀にぴったり
おしつけたその背の
その すぐうしろで
さびしいと いまいったろう

そこだけが けものの
腹のようにあたたかく
手ばなしの影ばかりが
せつなくおりかさなって
いるあたりで

背なかあわせの 奇妙な
にくしみのあいだで
たしかに さびしいと
いったやつがいて
たしかに それを
聞いたやつがいるのだ

いった口と
聞いた耳とのあいだで
おもいもかけぬ
フタがもちあがり
冗談のように あつい湯が
ふきこぼれる

あわててとびのくのは
土塀やおれの勝手だが
たしかに さびしいと いったやつがいて
たしかに さびしいと いったやつがいて

たしかに それを
聞いたやつがいる以上
あのしいの木も とちの木も
日ぐれも みずうみも
そっくりオレのものだ


夕暮れ

詩;黒田三郎


夕暮れの町で
ボクは見る
自分の場所から はみ出てしまった
多くのひとびとを

夕暮れのビヤホールで
ひとり  一杯の
ジョッキーを まえに
斜めに 座る

その目が  この世の誰とも
交わらない  ところを
えらぶ  そうやって たかだか
三十分か一時間

雪の降りしきる夕暮れ
ひとり パチンコ屋で
流行歌の中で
遠い昔の中と

その日は厚板ガラスの向こうの
銀の月を追いかける
そうやって たかだか
三十分か一時間

たそがれが その日の夕暮れがと
折り重なるほんのひととき
そうやって たかだか 三十分か一時間
夕暮れの町で
ボクは見る
自分の場所から はみ出てしまった
多くのひとびとを



  


Posted by にぎにぎ at 20:00Comments(1)こだわり