2016年09月22日

彼岸花

 彼岸花

           木村永遠

疲れた体と心を乗せた車は
大野川に架けられた橋を渡るとき
もう少しで家に帰れるとため息をつく

渡り終える手前の左側に見えるのは彼岸花
お盆が終わってから
現実の慌ただしさに
深呼吸をすることさえ忘れていた僕を
君は忘れていなかったんだね

君と一緒に佇んだ三年間
僕は君に何もあげられなかったし
君に何もしてあげられなかった

君は最後の一年間さえも
僕に微笑んでいてくれた
微笑む君の瞳の奥に
深く刻まれた苦しみがあることを
僕は知らなかった

彼岸花の真っ赤さは
僕が「付き合ってくれないかな」と
君に告白した後の
君のホッペの真っ赤さそのものだ

時が秋に向かって
七時には夕焼けが空を染める
夕焼けが今までの思い出を
赤く浮かび上がらせる

三年間の掛け替えのない君との思い出が
彼岸花になって真っ赤に迫ってくる
涙が枯れてしまって心に深い皺を刻んだ
僕に向かって